アイディア部門 JAFICA 賞 「Space out」 長嶺 瑠楓 駒沢女子大学人間総合学群住空間デザイン学類インテリアデザインコース3年 審査員講評
とかく鋭利で直線的な空間に包まれがちな現代建築が林立する状況の中で、大胆な有機的なフォルムで空間を埋め尽くし、しかも、和紙という光を透過し、自然を感じさせるテクスチャーと、木の柔らかな触感を宿した素材で構成するという、思い切った進化系の和のしつらえが、極めて未来的な“日本”を感じさせる。「何も考えない」ための空間とは、ゆったりとした時間や温かい光に包まれる贅沢な場であり、「未来の癒し」と出会うためのエシカルな場という印象。胎内感覚を想起させると同時に、宇宙的な無重力空間のようでもある。
一般社団法人日本エシカル推進協議会(JEI) 会長 生駒芳子
未来は?これから日本は、世界はどうなってゆくのだろうか?気候変動、環境破壊の代償として自然災害が激増するかもしれない。一方イノベーションはますます加速し息苦しいほどの情報過多社会になるかもしれない。そんな未来に向け、「スペースアウト」という概念を具象化したのが和紙を使った当作品だ。オーガニックな曲面にやわらかい光が溶け込み心やすらぐ空間となっている。和紙はふすまや障子をはじめ高温多湿の日本の環境に適し平安時代には部屋を仕切る蔀戸(しとみど)にも使われていたという。古来親しまれてきた素材を見直し未来へとダイナミックに繋げてゆく発想を高く評価した。
一般社団法人日本空間デザイン協会(DSA) 名誉会長 官浪辰夫
条件の決められた課題のなかでつくられた作品と思われるが、和紙を用いたきわめてユニークで、質の高い空間デザインが提案されている。インテリア空間への和紙の使用は、わが国の伝統的な明り障子以外にも、イサムノグチの照明器具などがよく知られているが、この作品では、それらとはまた違う和紙のやわらかな特性を生かした斬新な使い方が提案されている。現実の空間に適用しようとする場合は、和紙の固定方法や採光・照明との関係など、工夫すべき点も多々あるであろうが、和紙に秘められた新たな魅力を期待させる優れた提案であると評価できる。
日本インテリア学会(JASIS) 名誉会長 直井英雄
設定された1面開放の直方空間の中、その直線的な空間において、手描きスケッチにて何度も試行錯誤をしながら生まれたような、緩やかな曲線の形状の壁の構成と床の構成、壁は緩やかなカーブ形状でもありながら、透過性のある和紙素材を使用することで、光の陰影によって内部にいる人を緩く奥へと誘う。床の形状も壁と同一ではなく、一部吹抜け空間をもうけたり、レベルの違う床をもうけるなどして、縦方向の半透明の壁のみでななく、上下にも空間の複雑さを与え、様々に柔らかい光と曲線による重層する空間は自然空間の不確実性のように、日常とは違う空間でストレスから開放された気分を感じることができると思う。
公益社団法人 日本インテリアデザイナー協会(JID) 理事長 丹羽浩之
実際の和紙が持つ、柔らかで穏やかで、かつ芯のある質感が作品のテーマをより際立たせた。上下 前後 斜め空間の境界の曖昧さ、絶妙な和紙の曲面の仕切り、まさに宇宙空間を連想させるような繊細かつ大胆な作品である。
伝統工芸の和紙のもつ歴史や素材や工法、デザインを、何もない白い空間に緩やかに落とし込んだ本作品のインテリアのセンスは抜群である。得てして色や空間については、埋め尽くさないと心配になってしまうところがあるが、本作品は空間のシンプルな美しさを潔く表現したことで際立っている。この世界観が伝統工芸の和紙の深い魅力と相まって、未来の麗しの地球にいざなってくれる。アイディア賞の最高峰に相応しい作品である。
一般社団法人 日本フリーランスインテリアコーディネーター協会(JAFICA) 会長 江口惠津子